「かんぽの宿」売却の問題点とは何か

日本郵政がオリックスに一括譲渡する予定であった「かんぽの宿」70施設の内容を知っているわけでないので、私の見解は推測の域をでないが、もし私の指摘が違っていたら今回の問題は単に売却方法に誤りがあっただけであろうと思う。先ず、「かんぽの宿」を語るにはその成立まで遡る必要がある。「かんぽの宿」の事業は簡易保険が源である。保険金の運用のひとつに「かんぽの宿」があるのだから事業収益の考え方は、一般的な不動産事業、レジャー産業やホテル・旅館業とは違うのである。何が違うかと言えば、事業資金の考え方である。一般的には事業資金は、「自己資本」と「他人資本」で構成されるが、保険金を使う事業は全く次元が違う事を知るべきである。保険の加入金で行う事業は、保険の支払金(事故率)に関係して仕組まれると同時に保険金額の増加とともに資産を増やす必要になる事と関連するからである。勿論、それだからと言って事業収支が赤字でも良いというわけではないが、一般的な温泉旅館と運用の組立が違うことを言いたいのである。そもそも論から言えば、何故簡易保険に乗り出したかと言うことと、官僚の天下り問題に主たる議論が移り、一括売却と異なる議論にすり替えられる恐れがあるので、その問題はここでは取り上げない。今回の一番の問題は、民営化に当って事業収支がマイナスである「かんぽの宿」を売却することになった経緯と議論である。民営化に伴って簡易保険事業を廃止するのであれば売却決定は当然のことだが、民営化ではかんぽ保険事業を継続するのに単純売却するのは早計であるのである。一部識者が指摘しているように、70施設の建設工事費に2300億円の資金を投じているのであるから減価償却費は大きな額となっているはずである。年間50億円の赤字が当然に減価償却費を控除した結果とすれば、108億円の売却金額に対して鳩山総務大臣が怒るのは当然である。70施設の平均客室数を25室と仮定すれば、全体で1,750室である。安すぎると言われる「かんぽの宿」だから1室単価を1000円値上げすれば、1,750室×1000円=1,750,000円×365日=638,750,000円の売上げ増である。然も、保険事業の資金を投じたのであるから事業収支は全く考え方が違うことも指摘した。保険事業が赤字ならば民営化に際して廃止すべきであろう。「かんぽの宿」の売却で処理する次元の話ではないのである。「かんぽの宿」は民営化後に事業再生の努力をし、然る後に施設の老朽化に対する再投資の問題が生じてから不採算施設の売却を行うほうが損失は少ないと思われる。今回の問題に不正があったかどうか分からないが、郵政の民営化に現場を離れた裸の王様になった年寄り経営者や実務をしらない学者が出した結論などは、企業の餌食になるだけである。

不安を助長させるマスメディアに存在意義はあるのか

連日のTVニュースや新聞報道は暗いニュースばかりである。各企業の人員削減報道は発表記事なのであろうか。近年、経済学にも人間の感情を研究する学者が現れ、「行動経済学」などと認知されてきている。何時も思うのだが、マスコミ業界の連中は自分達の報道が企業の首切りを助長させている事に気づいていないのであろうか。尤も、現在の様な報道姿勢を続けていると企業広告が減り、マスコミ業界の経営危機となると一般的には考えられる。確かに、今後は広告収入は激減すると予想されるが、バブル経済崩壊時の記憶を辿ると短期的には間違いないが中・長期的には展開が違った。記憶している方もいるだろうが、最初は各企業とも広告費を削減したが、途中からリストラ効果で企業の体力が回復したため、企業は広告しないと商品が売れないと判断して逆に広告が増加したのである。マスコミ各社が今回も同様な展開と踏んでいるとすれば、不安を煽ることで企業のリストラを促し、早期に広告掲載が戻る事を考えての戦略があるかもしれない。しかし、マスコミ業界が今回も同様であると考えると大きな誤算がまっていると思われる。今回の金融危機は世界規模という事と、景気回復しても単純に既成マスコミ業界に広告が戻らない位の社会システムに変化が起きる可能性が高いからである。私が言いたいのはマスコミが不安を煽るのは自分達のためであり、社会のためではないので、報道に一喜一憂しないことが大事であると言うことである。

対前年度と言う比較は正しいか

政府やメディアは対前年度比と言う言葉が好きだが、この比較は経済成長率を前提としており、日本の様に経済規模が大きくなり低成長率やマイナス成長で物事を決めなくてはならない国には正しい比較とは思えない。日本経済を牽引してきた自動車産業を例に取れば、30年前には国内に自動車メーカーが多すぎるので生き残れないと言ったニュースが多かった。この見解を振り返ると、当時自動車産業は国内のマーケットが主体で海外の輸出が今の様に増加するとは品質面から考えられなかったためであろう。しかし、日本に自動車メーカーは、省エネ技術やIT技術による制御技術の進歩によって性能を向上することが出来て輸出が増加し、トヨタなどは自動車王国のGMやフォードを脅かす存在にまで成長した。しかし、今回の金融危機によって自動車各社は大幅な減産見通しとなり、トヨタは知らないが、マスコミは悲観的な報道ばかりである。翻って、成熟してしまった国内の自動車販売は若者の自動車離れもあって減少の傾向にあると報道されているが、この報道は本当に正しいのであろうか。もし、比較するなら30年前の販売台数に対して現在の数字を見る必要がある。若者の人口が減少しているので、30年前と比較すると一定の年代の購入率は減少しているのは当然なのである。この減少は景気や社会現象と何等関係がないと言える。問題は其処まで掘り下げたニュースであるかで記事の信憑性が確認される。日本国民が考えなくてはならないのは、成熟した社会は常に何処かが伸びれば何処かが下がるのであり、古いものは新しいものに取って代わられることに気づくべきである。勿論、多くの産業は需要が少なくなってもゼロにはならないので、生き残ればそれなりの果実は得られる。輸出の予想外の拡大で成長した業界に対して対前年度比を比較しても意味がない。問題は、今回の金融危機から生じる景気の落ち込みが20世紀経済の終焉であり、21世紀に向けて新しい経済モデルの構築をする必要があることであろう。21世紀経済モデルは今実用化に向けて研究されている多くの新しい技術によって構築されるであろうが、それ以上に重要なのは日本の様な成熟した社会では物質的な豊かさだけでなく、生活レベルは下がっても安心できる社会の構築であろう。この構築に一番邪魔なのは対前年度比と言う言葉ではないかと思う。

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