ユーロー安の穿った見方

ギリシャのソブリン・リスクから始まったユーロー安に関しては、欧州共同体の政治統合なしの通貨統合を問題とする論調が主流だが、本当にそうなのだろうかと疑問を持つ。今回の世界的な株式暴落を引き起こしたギリシャ問題を別な観点から分析すると違った光景が現出する。金融危機以降の世界経済、特に米国と欧州は公的資金の市場投入で最悪な結果を防いだが、肝心の景気回復の設計は得られないのが実情である。米国は確かに大規模な財政投入で底打ち感が漸く出てきたものの追加の財源は厳しく、今年度以降の経済を浮上させる財政的な手立ては少ないので先行きの懸念がある。欧州各国に目を向けると米国と同様に最悪期は脱したものの景気回復を描く経済成長を促す材料はなく、各国の政権も英国同様の政権党の不人気で近づく選挙で大敗する可能性もあり、各国首脳は頭が痛い所であった。しかし、今回のギリシャのソブリン・リスク問題は、ユーロー安を招いたが通貨安は欧州各国の企業の輸出競争力を高める事になり、欧州共同体の問題とは別な面が見えてくる。特に、ドイツ、フランスなどの企業はユーロー安により海外への輸出競争力が増す事は大歓迎と推測される。又、米国を見ると短気的な株安は米国経済にマイナスだが、ギリシャのソブリン・リスクは世界中から資本が米国に流入する結果を生じ、次の一手に困っていた米国に大きな恩恵となっている。翻って、日本を見ると、アジア経済により景気の底打ち感が出てきた時期に大幅な円高に見舞われることになり、今後は輸出企業収益の減少によって景気回復が遠のく事にもなりかねない。アジア各国の経済成長で一番恩恵を受けると考えられる日本を狙い撃ちにした様な円高を見ると、ギリシャのソブリン・リスクはこの時期に何故引き起こされたのかを注意深く見る必要がある。特に、欧米の政治家は今でもマキャベリの君主論とクラウゼビッツの戦争論を座右の書としている現実を忘れると痛い目に会うことになる。

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