不動産屋の独り言

スカイツリーの開業で東日本大震災の悪夢を一掃するかの様に高い建築物に対する憧れが戻ってきた。上から見下ろすと言う行為自体が権力的であり成功者に実感を与える存在になっている。昔は城の天守閣が高く聳え立ち人々を見下ろしていた。現代は高さを競うように世界各国で超高層建物が建築されている。日本では建築技術の発達により地震国でありながら高層建築物が建てられ人気を博している。現代社会は多くの分野で技術レベルが高くなり、多くの人は仕組みについて全くと言ってよいほど無知になっている。無知と安心感は表裏一体なのかと思えるほど高層建築物に対する不安な声は聞かれない。しかし、米国では9.11以降、日本では3.11以降に間違いなく高層建物に対する不安感を持つ人々が増えてきた。特に、最近のオフィスビルのテナント募集で感じることは、3.11以前と異なり、低層階を求めるテナントが確実に増えてきている。話は変わるが、格差社会と高層建築物の人気には相関関係があると思われて仕方がない。高層マンションはバブル崩壊後に埼玉県にマンションデベロッパーの大京が建築したのが最初で、その後は多くのデベロッパーが高層マンションを分譲している。この時の高層マンションは内陸部であり、今の様に臨海部ではなかったのは何を意味しているのかだ。高層マンションの増加は建築技術の発達が後押ししたのだが、一番の要因は高い地価を下げる意味もあったからである。専門家でなければ高層建物の建築にはコストが掛かるので価値があると思われがちだが、高層化する程に土地の持分は少なくなるので、日本的な不動産価値から言えば逆に高層化する程に原価は安くなるのである。本来ならば、高層化するに従いマンションの分譲価格は安くなり、オフィスビルの賃料は低くなって良いはずなのだ。然し、実際には高層化するほどマンションの分譲価格は高くなり、オフィスビル賃料は高くなる。デベロッパーは高層建物には笑いが止まらないのである。この為、何時起きるか分からない大地震のリスクより建築計画を優先するのである。万が一大地震で倒壊したりすれば想定外と言う便利な言葉が既にあるからである。尤も、土地の地盤が余り良くない場所に建てたスカイツリーは人気があるが、同じ敷地内に建てた高層オフィスビルは人気がない様だ。押上に何故オフィスビルだと言う指摘もあるだろうが、常駐する場所でなければ高い場所も相変わらずの人気だが、翻って常駐するとなれば人の意識が変わってきたのかもしれない。高い場所は確かに成功者の心を捉えるが、少なくても地震多発国の日本では企業の事業継続の観点から高層ビルにオフィスを構えるリスクについて考えられ始めたのかもしれない。インターネットで見たアップルの新本社ビルのイメージ図は森の中に4階建の円筒の建物であった。時代の最先端の企業が造る新本社ビルは今後の建物を暗示しているかもしれない。確かに、自社ビルであれば高層ビルでなければならない理由は何処にもない。環境や安全を考慮すれば、低層階の環境に良い建物を計画することになるのは必然だ。日本は少子高齢化社会に入り年間20万人規模で人口が減少して来ているのに、今更高層建物かと考えてしまう。近年の高層建築ブームはデベロッパーが多額の利益を生むために造っているもので、日本の未来社会を想像しているものではない。都市計画の観点がない日本だが、そろそろ成熟した社会にとって老朽化したインフラに対するメンテナンスの配慮を含めた建物や街づくりを考える時期に来ているのではないかと独り呟いてしまう。
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