正規分布社会からべき乗分布社会への移行は本当に正しいのか

日本社会の今の苦しみは正に戦後に日本が作り上げてきた正規分布社会を否定し、べき乗分布社会に移行するための産みの苦しみと言える。若い世代の人の多くは正規分布社会を社会主義国家として日本経済の停滞を招いた張本人と見做して非難する傾向が強い。しかし、正規分布社会に関しては、米国かぶれの若い世代は驚くかもしれないが、米国の若手官僚が戦後の日本で実験を試みた理想の社会モデルであったことである。勿論、白紙の状態で正規分布社会を植え付けることに成功したわけではなく、日本の若手官僚も国家社会主義的な考え方を持っていたことと同期したためでもある。何れにしても、戦後の日本は財閥が解体され、個人の資本家がいなくなり、企業の持ち合い株方式で企業利潤の追求が行われたが、この点も正規分布社会を作り上げる一因であったと思われる。欧米の資本家にとっては、共産主義国家を凌ぐ社会主義国家の出現は鬱陶しいものであったが、米ソ対立の冷戦時代には地政学的に日本を重視するしかなく、他国への波及がないことから黙認していたのが本音と思われる。しかし、冷戦構造消失し、軍事的に米国の独り勝ちになった時点で日本の社会主義的な正規分布社会を敵と見做すことになったと考えられる。その前に日本経済は為替問題で急激な円高を強いられて国内的にバブルが起こり、冷戦構造の消失後にバブルは吹っ飛んだために大きなダメージを受けていた。欧米の資本家にとっては日本の社会主義的な正規分布社会を壊す千載一遇と考えたかもしれない。余り陰謀説を強調すると主題から離れると同時に論点に関しても疑問を持たれるので推測はこの程度で終わりにするが、正規分布社会の崩壊は欧米の資本家にとっては歓迎すべきものであったのは事実である。つい最近まで経済は正規分布で成り立っていると考えられていた。正規分布の左右5%が異常値として無視できるとさえ言われた。しかし、リーマンショック後はブラックスワンなどの解説書が出版され、経済は常に異常値で変動することを言い出した。経済と社会はどの様な相関関係にあるのだろうか。子供のころに正規分布は学業成績の分布図と教えられたが、基本的に人の能力の分布は正しいことが証明されている。5段階成績評価では、2,3,4の成績で80%以上の大多数占める。最低の1と最高の5は少数である。人間社会の能力からみれば、正規分布社会が理想的であることが分かるのである。経済的な消費の観点からも正規分布社会であれば過去の日本の社会の様に80%の人が中流意識を持って購買力に期待が持てるのである。それでは当世風のべき乗分布社会に言及すると、経済的な富は20%の人に集中し、80%の人は平均以下の生活が強いられる社会である。この点からも消費が伸びて景気が良くなるという社会構造ではない。何を勘違いしたか、金持ちを作れば景気が回復するなどと言う戯言が蔓延したが、金持ちが投資したからと言って景気回復などあり得るわけがない。百歩譲って金持ちが生まれるとベンチャー企業に投資するので新しい技術や会社が増大し、景気回復に繋がるという考え方は間違いではない。特に、今の日本社会は行政が社会主義的な考え方が強く、大企業だけを見ているのでベンチャー企業が育たないことは確かだ。しかしながら、その点だけを見てべき乗分布社会が正しいとは言えない。日本は規制緩和前は競争社会でなかったと言うのも木を見て森を見ずの類だ。確かに、多くの業種に規制の網は掛けられていたが、網の中での競争は激しいものであった。公共事業の談合問題もインフレ時代を経験しない人達の認識不足だ。枝葉末節の議論ではなく、経済的には正規分布社会の方が良いか、べき乗分布社会の方の何れが良いかと言われれば、80%の人達が消費に動く正規分布社会の方が優れていると言わざるをえない。インターネットの出現で経済は否応なしにべき乗分布に移行せざるを得ないので、日本が正規分布社会に戻ることは出来ないかもしれないが、それでも理想的な社会は正規分布の社会主義社会と思われる。

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