イスラム研究者「内藤正典」教授の講演を聞く機会を得て

先日、知人が開いた懇話会で同志社大学大学院の内藤正典教授の講演を聞く機会を得た。ドメステックな不動産屋の親爺がイスラムに興味を持っても意味がないと言われるかもしれないが、経済はグローバル化し、日本経済に影響がある世界の出来事については国内に限定したビジネスを行っていても無視できないので、機会があれば情報をとることにしている。。

私自身はアラブ人とペルシャ人の区別も出来ないほど無知だが、一般の日本人もイスラムについては、新聞報道で知る程度と思われ、今から30年位前に多くのイラン人が日本に出稼ぎに来ていたことと、確か筑波大学教授がイスラム教を侮辱した本を翻訳出版して暗殺された衝撃的なニュースで知っている位と推定される。しかし、イスラム教はアジアの諸国のインドネシアやマレーシアで信奉されており、世界中で多くの信者を有し、影響力のある宗教な割には日本では余り知られていない。原因は日本のマスコミが欧米の文化一辺倒で、イスラム世界に関して余り報道していないためと思われる。

内藤教授はシリアのダマスカス大学、トルコのアンカラ大学に学び、フランスの社会科学研究院の客員教授、英国のアバディーン大学の客員教授の経歴を持つ、日本では異色のイスラム研究者であった。歯切れの良い講演は目から鱗の話ばかりで、イスラムについては日本人は真実を知っていなく、イスラムについての報道はかなり偏向していると考えざるを得なかった。日本のイスラム報道が何故偏向するのかは、欧米のキリスト教文明の情報源を主として使用した報道を行っているからなのは自明だ。

フランスで起きたテロ事件は日本では欧米のニュースに従ってISの仕業と断定して報道しているが、内藤教授の見方は、フランスに移民した500万人のイスラム教徒の経済的な苦境と差別が背景にあり、移民2世の不満が起こした事件として捉えていた。この為、今後ともISと言う国境を超えた集団に移民2世が呼応してテロ事件を誘発する危険性を指摘した。シリアと言う独裁国家は国民の生命財産を無視しているので多くの難民が発生するリスクがあり、日本も北朝鮮と言う独裁国家が近隣にあるので、シリア問題を研究する必要があると内藤教授は指摘した。内藤教授の話だと、シリアは北朝鮮と親しく、内藤氏がシリアに留学していた時に北朝鮮から多くの留学生が来ていたらしい。

フランスなどがテロ事件に対抗してISに対する空爆を強化したが、IS自体は国家ではないので、世界中で戦士を活動させることが出来る事が問題であり、中東のISを消滅すれば、逆にISの戦闘員は世界に散らばり、欧州や米国の移民2世を巻き込んだテロが続発する危険性が高いと内藤教授は指摘した。更に、インドネシアなどイスラム教の国にも争いが波及する可能性も否定できず、世界は混乱に陥るリスクも指摘した。欧州のイスラム移民に対する差別等を無くさない限り、欧州のテロはなくならないという事だ。そして、欧州のテロはインドネシアなどのイスラム教徒も刺激すると指摘している。怖い話だ。

なお、内藤教授の話は怖い話ばかりでなく、イスラム教徒は昔は飲酒を禁じていなかったが、酒を飲んだ不祥事が多かったので禁酒になったことや、女性が頭から被る布はイスラム法で決められたことでないことなど多岐にわたった。内藤教授の話を聞いて改めて異文化の尊重、移民に対する経済的困窮や差別の撤廃が平和の前提になると考えた。しかし、資本主義経済は同じ民族にも所得格差を産み、低所得層と移民との確執が生じやすいので、グローバル経済の仕組みについて考えなおす必要があると思われる。難しい時代に入り、政治家の器量が問われる時代なのに世界中で政治家の質が落ちているのは杞憂すべきことだ。

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