国交省の不動産価格上昇を目論んだ蜃気楼政策

国交省は介護施設など不動産投資に30兆円、ホテル不足に容積率の緩和など大々的にマスメディアを通してアドバルーン発言を打ち上げている。この様な記事を目にすると30年前の当時、国交省が建設省や運輸省、国土庁と名乗った時代にマスメディアに同様打ち上げたアドバルーン発言を否応なしに想起した。金融都市の東京にはビルが少ない、リゾート時代到来にヨットハーバーなどレジャー施設が足りないなど民間企業に投資を煽るものであった。還暦を超えた世代は行政に煽られて行ったプロジェクトがどの様な顛末を辿ったかは周知の事実だ。

勿論、当時と現在とは直接金融時代と間接金融時代と金融の背景が大きく異なるので比較しても意味がないと反論されるかもしれないが、アドバルーン発言による仮想需要と実際の需要とのかい離が引き起こす結果は同じであり、不動産証券化手法によるリスクの拡散で被害者は想定以上に拡大することを考えるべきだ。

日本の経済再生には私も賛成だが、日本を破たんに導くような蜃気楼政策には断固反対だ。安倍内閣の政策顧問をしているイェール大学名誉教授の浜田宏一が2013年12月に書いた「アメリカは日本経済の復活を知っている」を再度読み直した。日銀のデフレ金融政策を批判し、世界経済の新しい潮流から日本は孤立していると断言し、今日の経済再生には財政政策ではなく、金融政策が有効と主張したものだ。正に、安倍政権は浜田宏一の提言を受け入れて金融政策により円安と輸出拡大で株価を上昇させて景気回復を目論むシナリオ通りなのが分かる。

浜田宏一は、日銀OBの書いた「人口減少がデフレ原因」に対して強烈に批判している。人口減少は逆にインフレを発生させると断言している。浜田宏一は経済学的視点からではなく社会学的視点から本を書いたと述べた通り、日本の学者やマスコミの問題点を挙げており、幾つかの点で私も真実と評価している。しかし、今日の日本経済の停滞を日銀と財務省にだけ責任を負わせる主張には無理があると言わざるを得ない。1985年9月のプラザ合意に基づく円高対策で行った金融緩和と内需の為の財政出動によって引き起こされた未曾有のバブル経済と崩壊、その後に起きた不可思議な通貨危機を考えると、浜田宏一は世界金融政策に同調するリスクの大きさを考慮していないと言わざるを得ない。

円安が日本を救う考え方は、日本から多くの工場が移転する前の事であり、日本製品の多くの部品が海外の工場から輸入する現在では、円安だけでは解決できない問題が横たわっている。円安で地方経済が再生しないのは地方に工場がなくなってるからに他ならない。尤も、円安で再度国内に工場が戻ってくると期待する意見もあるが、グローバル経済では円安だけで戻ることはない。少子高齢化の日本で低賃金の労働者を確保するのは困難だからだ。

日本経済再生のマイナス要因は非正規労働者の出現だ。小泉政権時代に派遣法を改正して工場労働者に対する非正規雇用者を作り出した。円高に対する為替調整に対応するものと成立時には説明がなされた。非正規雇用が拡大し、現在では雇用全体の40%を占めるまでに至り、低所得者層の大幅拡大は消費の低下を引き起こし、同時に飲食店等は低価格料金の店舗展開を図ったのである。バブル経済後に資産デフレが起きたが、商品のデフレは単に円高だけから起きたものではなく、政府の構造改革などの価格破壊にも起因しているのである。この為、浜田宏一が主張するように金融政策で円安株高になれば、日本経済が再生すると言う単純な構造ではないのである。

経済再生には金融政策だけでは駄目と分かり、国交省が日本国民を再度欺くアドバルーン発言を繰り返し、何時か来た道の悪夢を再生する蜃気楼政策には断固反対だ。ホテルが足りないと言うが、2月には予約が少なかったとホテル経営の知人は嘆いている。国交省に容積の餌に釣られてホテルを造って破たんしたのでは意味がないが、不動産証券化でリスクを分散する社会だから一般投資家は甘い話には乗らない方が良い。人口減少はデフレと関係ないと断言するのは単に労働者のひっ迫だけの視点しか見ていなく、その点から言えばインフレ要因だが、全体の労働者の20%の大企業しか見ていないのでは、日本経済の再生など覚束ない。

 

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