愚かな社会の愚かな判決②

当該マンションは1971年竣工なので当時購入して現在でも居住している方はリタイア組であり、中古物件として購入した方は取得時期によっては未だ償却が終わっていない可能性もあります。底地部分の所有者の経済的破綻に対する対応は当然に管理組合を通して全組合員に知らされていると推定され、総会で対応を議論してきたと思われる。この辺りは全て推定だが、当たらずとも遠からずと思われるので推定をを続けるとして、底地権の購入金額は1戸当たり400万円前後、総額約2億5千万円と考えられる。総会で結論が出なかったので競売になった訳だが、マンションの底地など誰も見向きもしないと言う楽観論が支配したためかと思われる。底地の深刻な問題は全員が賛成でないと結論が出せないと言う厄介なことだ。その為に折角のチャンスを逃したと思われるが、残念なのは当該マンションは現行の許容容積率が少なかったことだろう。若し許容容積率が大きかったらデベロッパーに持ち込んで底地を買い上げて貰って再開発に持ち込めた可能性もあった。

何れにしても組合員の予想を裏切って底地を競売で落札した不動産会社があり、その不動産会社は当該マンションの容積率違反になるのを承知の上で戸建て住宅としての1700㎡の内420㎡の土地売却を企てたことだ。停止条件付で売買契約を締結した戸建て住宅販売業者は建築確認申請を指定確認検査機関に提出したことから特定行政庁の杉並区役所が容積率違反になることを発見し、区役所では競売取得した不動産会社と当該マンション管理組合とで土地の売買で解決を図るように書面で通知し、指定確認検査機関には建築確認を保留するように行政指導したとのことであった。杉並区役所としては適正に行政としての役割を果たしたと言えよう。問題はこの先で起きた。競売で購入した不動産業者は二度の行政指導に従わずに対象土地の内420㎡をを関連会社に転売し、戸建て販売業者はこの関連会社から420㎡の土地を購入して再度建築確認申請を提出した。計画した住宅の設計自体が適法だったので、指定確認検査期間は建築確認を交付し、結局問題の戸建て住居が全棟完成した。

この為、管理組合では関係不動産3社に対して「住宅によって眺望や日照を侵害された」などとして完成した6棟の住宅の撤去や慰謝料の請求の支払いなどを求めて提訴した訳だ。結果的には、慰謝料33万円の支払いを不動産業者に命じたものの、戸建て住宅の撤去は認められなかった。訴状の内容は知らないが、戸建て住居の撤去以外に慰謝料などを求めたのは最初から住宅の撤去は難しいとの判断が管理組合側の弁護士にあったと推定できる。WEB雑誌では1984年の改正区分所有法の成立以前は建物と土地を切り離して売却できたので、1983年以前の建物には今回と同様のトラブルの懸念があると指摘していた。しかし、今回の事件は指定確認検査機関が生まれていなければ戸建て住居の建築確認の交付はあり得ない事を考えると、1983年以前と言うより、規制緩和が生み出した法の網を抜けた悪質な不動産業者に利益をもたらす仕掛けとと言える。正直者で納税を怠らないものが不利益を生じる社会とは何だと言いたい。裁判官も法律論でしか物を見ない社会経験も少ない者が一連の流れの悪質さも判断出来ないで判決を下す社会には愚かさ以上に絶望的になる。

愚かな社会の愚かな判決

偶然に目にしたWEB雑誌の記事に目を惹かれた。

タイトルは"敷地に戸建て、マンション容積率違反に"でした。東京都内の杉並区の分譲マンションの敷地内に戸建て住宅が建築され、マンションが容積率違反の違法状態になっているとの記事に最初はあり得ない話と思い、記事が間違っているんではないかと疑った。しかし、読み進んで行くに伴い、この様な事が他の事でも起きていたらと気になりだした。小泉内閣時代の建築基準法の改正により、建築確認申請の審査が民間会社でも可能となり、指定確認検査機関が出現した。行政庁でも建築物の巨大化で対応してきれなくなったのに採算性が求められる民間の検査機関に出来るのかと言うのが私の率直な感想であった。民間検査会社の出現はその後に構造偽装事件と業務発注の変化の二つの面で現れ、今後が懸念される代物であった。不祥事が起きると行政は待ってましたとばかり今度は別な方法で規制強化を行うが、先の構造偽装事件後の規制強化と業務発注の変化は弊社の様な設計事務所に関しては色々な面でマイナス効果が大きく働いている。

然し、今回のマンションの容積率違反は規制緩和以前ならば起こり得ない事件だから余計に愚かな社会を作り出したことに腹が立った。私も知らなかったが、指定確認検査機関は業者から申請書が提出されると概要書を特定行政庁に送付する仕組みになっていることだ。今回はその送付で杉並区役所がマンション敷地内に建築される戸建て住宅でマンションの容積率違反になる懸念に気が付いた。同マンションは1971年と古く現行許容容積率/建蔽率は150%/60%だそうだ。約3000㎡の敷地として建築確認を取得し、鉄骨鉄筋コンクリート造地上11階建のマンションが建築されている。問題は敷地3000㎡の内、1700㎡が借地であり、その借地部分が競売に出されて所有権が不動産会社に移転したことだ。競売の経緯等は書かれていないので、今回の事件とは別に幾つかの疑問点はある。それに言及しないで今回の件だけを取り上げても意味をなさないと思うので、先ずはその点から述べるとする。一般的には底地である土地の所有者が経済的に破たんした場合には推測の域をでないが、債権者は借地権者に底地の購入を勧める筈だ。なお、当該マンションは敷地の約57%が借地であり、所有権と借地権がマンションの敷地権としてどの様に対応していたのかが不明だが、一部のマンションには所有権の敷地が付いており、一部のマンションには借地権の敷地である様な分け方はしないので、考え方としては共有持分(所有権)と準共有持ち分(借地権)の両方の持分で全戸成り立っていたと推定するしかない。

<以下次に続く>

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