遺産相続

国は高齢化社会を考慮した相続法制に係る民法の改正に向けて動き出している。相続税に関しては赤字財政の拡大から一人あたりの基礎控除の引き下げなどを行ってるが、相続人に対する民法の改正は現在の相続に関わる法律が制定されて以来初めてのことになる。今回の改正では高齢化社会で配偶者の居住資産の優遇措置が盛り込まれ、更に相続対象親族以外の親族に対する介護請求権も創設することで議論されている様だ。現行の相続に係る法制度は戦前の家督相続に対する戦後の民主化の中で制定された悪平等とも言える制度であったので、今回の改正に向けた動きは歓迎される。勿論、今回の改正が理論上ではなく、社会の実情にあった制度に改正されるならばであるが、事前に遺言を残せない高齢者の思惑も考慮した制度までは難しいと推定されるので、社会の実情に何処まで近づけるかと思われる。不動産開発に係る仕事を長年続けていると現行法の相続制度が悪平等であり、親族優先の矛盾を見せられた。悪平等の事例は、父親が生前に二人の息子に隣接した土地建物1棟づつを残していたのに相続時に弟が兄より3坪程土地が少ない為に10年以上も裁判で争いになり、結果的に兄が裁判で負けたので土地3坪の内1.5坪を弟に分割し、同土地には家屋が建っていたので地代を支払う事になったことだ。争いになった理由は知らないが、幾ら都心の高額な土地でも聞くに堪えない話だった。弊社が開発に入った時点では、弟は他所に引っ越して賃貸物件が建築されており、兄夫婦が相続した家屋に住んでいた。二人だけの兄弟が相続争いで他人以上の憎しみの対象となった訳だ。次の事例は、親族だけが相続対象となる現行法の大きな問題点であった。都心の借地権に小規模な店舗兼住居として暮らしていた母親と娘と母親の内縁の夫との問題であった。弊社が都心の再開事業の対象としたエリアの中に高齢な母親と娘が営業していた小料理屋があり、2階の住居に母親の内縁の夫が親子と暮らしていた。娘さんは50才を過ぎていたが独身であり、母親とその内縁の夫は共に80才を越えていた。内縁の夫と言いながら20年以上も一緒に暮らしているとのことだった。母親は群馬県の卒業した学校の同窓会に行くほど元気だったが、再開発事業中に仮住居先で急死してしまった。この為、娘さんが母親の内縁の夫を実の父親の様に生活の面倒を見ていたのである。再開発中に戸建ての住居を母の内縁の夫が購入し仮住居として使用していたのだが、血縁関係のない親子は再開発完成後も購入した住居が気に入り、再開発ビルのマンションには住まないで甥夫婦を入居させた。問題は再開発ビル完成1年後に起きた。娘さんが面倒を見ていた母親の内縁の夫が亡くなり、それを知った家族が20年振りに現れて娘さんに家から立ち退く様に通告したのであった。相談を受けた弊社は顧問弁護士を紹介したのだが、遺言もなかったので結局は裁判に敗けてしまった。20年以上も父親を放っておいて葬式に知らせても来なかった家族が資産があると分かった途端に相続を主張するなど理不尽とも言える事例だった。勿論、20年前に何があったかは知らないが、それでも20年の歳月を経ても生活力がない老人の面倒を見て来ていたのに親族でないだけで何も得る事がないのでは不条理極まりない。今回の改正で社会の実情にあった制度になることを要求したい。

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