関西新空港の今昔

関西新空港が台風の影響で数千人が空港内に閉じ込められた事と空港敷地の埋立地が沈下している報道を聞いた時に38年前に運輸省(現国土交通省)でのことが記憶の彼方から蘇ってきた。関西新空港の建設候補地は最初は神戸沖であった。新空港の計画は大阪空港が市街地に立地し危険であることと国際空港としては規模的に小さいこともあり、当時の関西経済団体の要請で浮上してきた。関西新空港プロジェクトは当時は未だ企業に東京と大阪の二本社制も残されており、今からは想像できない程ライバル意識が強かった時代の無理押しでもあった。その事は国際空港ではないが、関西新空港完成後に廃止予定であった大阪空港が現存している事でも分かる。東京に東京新国際空港が出来たならば関西にも国際空港を作れと言う最初から政治的な要素が強いプロジェクトだった。運輸省では建設費が安く付く地盤が良い神戸沖を候補地として兵庫県と神戸市に対して調整を図ったが、神戸市からの反対で新空港建設はとん挫したかに見えたが、関西経済団体は現在の立地場所の泉州沖に新空港を建設するように政治に働きを掛けた。土建政治のピークの時代なので建設には厳しい場所ではあるが、大きな利権になる建設計画に対し政治と企業団体が手を握って実現に向けて動き出した。運輸省は泉州沖に関して軟弱地盤の上、潮流も激しい場所なので最後まで神戸沖の可能性を探っていた。しかし、結局は関西経済団体の政治圧力に屈して泉州沖の関西新空港プロジェクトを進めざるを得なくなった。私が何故40年近く前の出来事を書くかと言うと、忘れられた出来事を再度人口に膾炙し、関西新空港建設に対する政治家と経済人の責任を明確にし、今でも同様の将来に禍根を残す色々な事業が進められている事に対する問題提起である。尤も、プロジェクトが決まると官僚も追従して利権の分け前を貪ったので、最終的に政官民が結託して国家を食い物にした典型的な事例であった。無理な話だったが、関西新空港計画には埋め立て計画の他に浮体工法の計画もあった。しかし、政治力がある建設団体を敵に回して正論が通ることはなく、スーパーコンピューター(当時は大型計算機か)で100年分の地盤沈下に対する解析を行って軟弱地盤対策工事を錦の御旗に埋め立て工法に決定した。関西新空港プロジェクトを推進した多くの人達は物故していると思われ、私の批判に対して反論できないので建設擁護者からは死者にムチ打つと言われそうだが、推進者達も現状を見ると反論の余地などないことに気付く筈だ。話は変わるが、沖縄の辺野古基地も埋め立て工法だが、工法の議論の中にはサンゴ礁を維持することや将来に必要なくなった場合を想定しての浮体工法も検討した様だが、台風懸念で一蹴された様だ。今でも土建政治が罷り取っていると思われ、国益を損ねている様だ。余談だが、関西新空港の建設が決まった後に運輸省を訪問した時に担当課長は神戸沖建設反対の神戸市に対して怒りが納まらず、神戸沖には絶対空港を作らせないと言ってたが、ご存知の通り、現在はローカル空港だが、神戸沖空港が出来ている。時間の経過は全てを記憶の彼方に追いやって過去の反省など何処にも存在しない。同じ過ちの繰り返しが1000兆円を超える赤字国債発行であり、国民にツケを回す政治経済だ。当初予算の倍以上掛って完成した関西新空港だが、完成直後からトラブルが続きで予想を超えて今でも地盤沈下が続いているので、本来ならば、関西新空港を廃止し、今こそ神戸沖の空港を拡張して新空港とすべきと思われる。日本人にその様な決断を期待しても無理な相談だが、その決断が今後の地盤沈下対策工事費を考えると血税を無駄にしない方法だ。馬鹿な連中は根本的な理由を理解せずにオペレーションを民間に移行すれば解決すると安直に考えて長期の契約を締結した。オペレーションが黒字になっても地盤沈下の対策工事や波による護岸被害に対する工事の費用は発生するので血税の垂れ流しは変わらない。否、分かっているからこそ国民の目を逸らすためにオペレーションは民間に任せたと見るべきかもしれない。今回の台風で数千人が空港内に閉じ込められたが、空港スタッフの対応が悪いと非難が起きている。当然だろう。オペレーションを引き受けた会社は利益を出すことに注力しているので、災害に対する備えなどに十分に対応していない筈だ。関西新空港は民営化以前の政治的な決断を必要な問題だが、小選挙区制度で小粒になった政治家に期待できないのは最悪のシナリオと思われる。

低金利の苦い思い出と金融緩和策の毒

10数年ぶりに友人から電話が入った。友人は国を守る仕事からリタイア後は建物を守る仕事に就いて役員として現役を続けている。10代に彼との縁を作ってくれた親友が彼の実家と近くなので時々状況は聞いていた。彼は長男なので相続で地方の資産を継承し賃貸に出していることは聞いていたが、今回の電話の内容は主たる賃貸物件が解約となる為、その後の活用に関しての相談だった。地方の名門校を卒業したので、地元で不動産業を営んでいる高校の同級生に相続後の資産活用に関してはアドバイスを受けてきたが、地方では解決策が見いだせないので、東京在住の私に相談して見るかとなった様だ。地方と言っても東京から60kmなので、一応首都圏に入るエリアだ。しかし、地方の衰退を象徴している様に土地が売れず、貸したくても借り手が居ない状況に先祖から継承してきた資産を維持するのに苦労することになった。彼とは彼の前職時代に家を購入する時に住宅ローンに関して「固定金利」か「変動金利」かで相談を受けて結果的に失敗させた苦い思い出がある。サラリーマンなので多少高くても長期的なローンであるので固定金利が無難と判断したのだが、彼の奥さんは変動金利を勧めていた。結果は私の大きな誤算だった。低金利が継続し、今やマイナス金利になったのである。経験など役に立たない世界が到来した。今回の電話で相談を受けた時に私は開口一番に奥さんが私に相談することを知っているのかと訊ねた。私にとってそれほど苦い思い出であり、振り返るのも嫌な出来事であった。翻って、リーマンショック後に金融危機を防ぐために先進国など国が行ってきた金融緩和策も2018年を境に反転する動きが出てきた。金利の上昇や資金回収の動きが出てきた中で新興国の発行した国債や企業の社債の返還が始まることになり、国家と企業のデフォルト懸念が出てきた。「低金利の罠」とも言うべき事態だが、日本も余りに長く低金利の中で事業が進められてきたので、金利上昇による事業の採算性など危惧する面が大きい。尤も、日銀も表面上は低金利策を継続すると言っているが、欧米などで金利上昇が進めば日本だけ低金利政策を維持するのは厳しくなることは一目瞭然だ。水面下では金利上昇に備えた研究が始められていると思われる。金融緩和政策は世界中の国に経済発展と豊かさをもたらしたが、その過程では金融緩和の毒も入っており、未来投資に名を変えたギャンブル投資紛いのプロジェクトも多いと推定される。金融が厳しくなった時に真価を問われるのだが、過去の経験が通用しない新興国の国債と企業の社債の償還ラッシュで何が起きるのかを必死に想像力を働かせて考える必要がある。

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