「イットと、まちがわれて:石蔵拓著作」について

石蔵拓.jpg知人の石蔵氏が上梓した書籍の電子版「イットと、まちがわれて~元首相はITのことをイットと言った~」がこの程出版された。私は電子出版に際して石蔵氏から後書きを依頼された。IT業界で仕事をした訳ではないのに後書きを書いた理由は、石蔵氏が本書を書く動機となった秋葉原通り魔事件で被害者と成った故宮本直樹君との関係からだった。秋葉原通り魔事件は正にカミユの不条理を思わせる出来事であったが、知人が犠牲となった事件として今でも私の脳裏に深く刻まれている。平成も来年で終わるが、31年の間はバブル経済の崩壊と資産デフレから生じたデフレ経済、情報化の急速な普及によるグローバル経済と雇用形態の変化など社会的経済的に大きく変容した。戦後のインフレ経済の待てば全てが解決した時代と異なり、平成のデフレ時代は先に動いて対応しないと損をする時代となった。急激な社会の変化に際しては過去の経験などが役に立たず、一方では従来には考えることが出来なかった無名の個人のソーシャルネットワーク(SNS)を通しての社会に対しての影響力の行使がクローズアップされた。新しい時代に順応できる者とそうでない者とが凌ぎ合う社会になって格差社会となり、能力と関係なしにその時点で置かれた立場によって勝ち組と負け組になる不条理な現象が生じ、その不満が一般市民に対する刃となって降りかかっている。この現象は昭和の時代は社会的不満が為政者に向く政治的テロであったが、平成の時代は格差社会に対する不満が為政者に対してではなく、個人レベルの問題として矮小化して見知らぬ一般人に矛先が変わっている。個人に矮小化した理由は職場のリストラと陰湿な苛め、更には過剰な競争社会が齎したものと推測される。本書はノンフィクションとしてIT業界を書いているが、情報化社会で必要な人材が派遣と言うシステムで動いており、社会福祉や国防など国家的な作業部分も無知な管理者の存在やセキュリティ軽視に驚くと同時に、業界に巣食っている裏社会、オウム教信者の技術者、統合失調症の技術者のチェック機能が働いていないのも懸念される。今後もAIを含め一層役割が重要視されるIT業界で、本書は日本が如何にセキュリティ対策などで遅れているのかを警告する書籍としても有用と思われる。興味のある方には一読を勧めたい。

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