イアン・トールの太平洋の試練を読んで

ロシアのウクライナ侵略に触発されて戦記物を読んでおり、イアン・トールの「太平洋の試練」は真珠湾攻撃から終戦までを描き切った大作ですが、過去に書かれたものではなく、2012年に第1部、2015年に第2部を上梓し、第3部は更に5年の歳月を掛けて完成したものです。著者は父親の仕事で子供時代に日本に住んでいた事が本自体は米国の視点で書かれてるが、日本に関しても良く理解されているのには驚きます。ストーリーは局部と全体を上手く組み合わせて進めているが、その整合性には驚きます。また、色々な真実が書かれており、太平洋戦争に関してはこの本以上のものが出ることはないと思われました。国家同士の戦争ですが、戦争の去就は人間個人の思惑で左右されることが書かれており、実に興味深くありました。日本は陸軍と海軍の仲が悪かったのは歴史的な事実ですが、米国も同様に陸軍と海軍が指導権争いをしていたことが書かれていましたので、その様な問題は国家として考えるものではないことも理解しました。ローズベルト大統領が海軍を好み、その後を継いだトルーマン大統領が陸軍出身なので意見を聞く相手先が変わっていったことにも興味を覚えます。太平洋戦争を起こした日本の失敗と日本軍の迷走は日本人の学者などにも研究されていますが、太平洋の試練を読むと日本軍の不可解な部分も良く理解できた他、日本人が日本を研究するには洞察に限界があることも分かりました。戦争もゲームと一緒でミスをした方が敗者になりますが、ミスしても物量的に勝った米国の強さは論外でした。日本は米国と戦争するならば中国大陸の戦争を休止して臨む必要があったにも拘わらず、国力の違いが大きく違うのに二方面の戦争したのは不可解ですが、ドイツの戦争を見れば自分達にも出来ると考えたのでしょう。日本人の精神論は戦後にも企業の中に生き続けていますので、日本人の言語が生み出した文化と言えそうです。そう言えば、米国海軍は台風で艦隊に被害が出たことが記載されており、この台風こそ蒙古襲来での神風であり、太平洋戦争でも神風が吹いたのですが、近代的な軍艦と海を埋め尽くすほどの船舶量では日本の勝利には程遠いものでした。原爆に関しては広島、小倉が対象であったようですが、二番手の原発投下に際しては離陸時からトラブルが続き、一度は行方不明とされた飛行機であり、沖縄の占領基地に戻るだけしか燃料がなくなり、第二候補の長崎にどうにか落としたことが書かれていました。ブログでは書ききれないほどの情報が入った本です。良い本に出合ったことに感謝です。

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