管理組合の初代理事長として就任した方は頭の回転が速く、管理組合業務代行会社としては業務をサポートする上で安心感がありました。しかし、一から始める管理組合体制の確立でしたので、想像以上に理事長さんには負担が掛ったと思われます。最大の問題は発足時点では自治会の運営スタイルを踏襲せざるを得ないことであり、管理規約がない為に区分所有法だけでは理事長の業務上の権限に関して制約があり過ぎた為でありました。その様な状況にありましたが、組合発足後には直実に管理組合規約の制定に向けての準備作業は進められました。先ずは、通常総会で管理組合の業務委託及び決算と年度の事業予算の計上などの議案書を作成し、管理組合運営の日常業務を推進できる体制を構築しました。事業予算の中に「長期修繕計画作成費用」と「管理規約制定の費用」が盛り込まれましたので、弊社は建物の調査に着手しました。
建物調査では竣工後に導入された法律による既存不適格に関してはそれほど問題視しませんでしたが、調査の過程で許容容積率オーバーであることに関しては原因を究明する必要に迫られました。弊社は不動産ファンドが購入する建物のデューデリジェンス(DD)を行ってきましたので、過去の建築物には違法性が多いのは認識していました。当該マンションも分譲業者が計画的に1階部分を駐車場として建築申請し、竣工後に店舗に用途変更したものと推察されました。しかし、実証できる建築確認申請図面はなく、自治会で保有していた平面図のコピーでは既に1F部分は店舗になっており、登記も店舗で登記されていましたので、調査としては現状確認に止め、現行平面図で各部屋の壁芯床面積を算出しました。
管理組合から当該マンションの保全の為に適正な管理費と修繕積立金を徴収する必要があり、その為に弊社に対し長期修繕計画書の作成作業を進める様に指示がありました。当該マンションは自治会運営としては管理組合が設立されているのではないかと思うほど計画的に修繕が行われてきておりましたので、長期修繕計画書の作成に際しては、その結果を踏まえれば良く、作成に当たっては緊急的に行う工事がないので、現行の留保している金額で当面は修繕出来ることが分かりました。長期修繕計画書作成後にその必要な支出に見合った管理費と修繕積立金の算出を進め、何通りかの案を管理組合に提出しました。
初代の理事長は一部の反対にもかかわらず粘り強く区分所有者の意見を纏めて管理費と修繕積立金の金額と徴収開始日を決定して後任の理事長にバトンを渡しました。理事長としての仕事は何時も決断を迫られるもので、2代目の理事長も就任早々に屋上の防水亀裂による漏水が最上階の部屋の内装工事で発見されて緊急対応が求められました。管理規約がない状態で緊急性がある工事でしたので総会に諮っている時間的な余裕がなく、工事金額も含めて大きな決断でした。この為に、理事長は管理規約制定に注力することになり、弊社に早急に管理規約のたたき台を提出することを求められました。
屋上防水工事の緊急対応が今回の管理規約制定促進の起爆剤となったものと思われ、理事長就任早々の出来事の上に初めて管理組合の役員になったこともあり、大きなプレッシャーであったと思われます。理事長として業務を遂行する上で管理規約の必要性を痛感したのは結果的にプラスになりました。
<以下続く>