2月の二度目の大雪には群馬県渋川市の伊香保町で遭遇した。14日金曜日の早朝に東京を出た時には天気予報より早く雪が降り始め、伊香保町に到着した時には既に10cmを超える積雪となっていた。今回の仕事では1泊2日の予定を組んでおり、2日目の15日土曜日には夕方に都内で用事があったので、午前中に仕事を終えて帰京するスケジュールであった。然し、1日目の仕事を終えて宿の行く頃には既に30cm以上の雪となっていた為に仕事先の駐車場に車を置いて旅館の迎えの車で行くことにした。この決断が後から重要な意味を帯びてくることになるとは露とも思わなかった。2日目の早朝四時に夜半に降り続いた大雪の為に停電となり、24時間入れる風呂も沸かし湯の為に入れず、勿論部屋の暖房も切れて伊香保温泉地域は非常事態に陥っていた。外を見ると、駐車していた車は雪に覆われてかまぼこ状になっており、屋根には相当の雪が積もっていた。路地は雪で覆われて除雪の動きもなかった。幸運にも宿泊した旅館は料理長が宿に泊まったので食事には事欠かなかったが、宿によっては料理長が大雪で旅館に来れずに食事の手配が出来なかったところも出たそうだ。幹線道路の除雪も出来ていないという情報が入ったので、電気も回復したこともあり、15日は早々と宿泊を決断し、16日帰京を期待して温泉とオリンピック放送で時間を潰すことにした。
しかし、気楽に過ごした一日が過ぎて16日早朝に起床して朝風呂に入る為に外を見たら天気予報に反して未だ雪が降り続いて居たので愕然とした。TVを点けてニュース番組を見ると交通網は機能停止しており、伊香保地域は観測史上118年振りの大雪と報道されていた。見た目では100cm以上の積雪であり、私にとっては初めての経験であった。ロビーに降りて女将さんから状況を聞いたところ、幹線道路の除雪は終えて、今後は支線の除雪を進めるとの情報であった。この為、女将さんの話では電車の方に関しては路線バスが開通しないならば渋川駅までマイクロバスでお送りするのでお待ちくださいとであり、我々も取り敢えずは仕事先の駐車場に車を置いてるのでバスの発車まで待つことにした。その後に女将さんの話を聞くと旅館の駐車場の除雪を優先しており、マイクロバスの発車は除雪後とのことが分かり、先が分からないままに待つより、私は同行者に徒歩で仕事先の駐車場まで行くことを提案した。急遽身支度を整えて徒歩で行くことにしたが、同行者の二人は事前の準備が良く、リュックに手袋を用意し、靴も雪用の物であることがわかった。私一人の装備が非常用でなく、自分の甘さに気が付いた。同行者の一人から手袋を借り、徒歩で30~40分歩き駐車場に着くと、車を置いた周辺とアクセス道路まで除雪されており、車を覆った雪を除雪すれば渋川駅まで行くことが出来ることが分かった。乗車し渋川駅に向かうと幹線道路の除雪も一車線だけが多く、自動車の走行も難儀であった。夜半に大雪が降ったことから除雪しなければ動けないと分かった時には役所の職員も除雪を請け負ってる建設会社の社員も自宅から出ることが出来なくなっており、想定外の大雪には脆い姿が浮き彫りになった。特に、伊香保温泉は閉鎖した旅館と住まなくなった個人宅、更には多くの店舗の経営者は通いのために支線の道路の除雪が行えない状況も回復に時間が掛った要因であった。
翻って、我々の行動を振り返ると、都内から自動車出来た二人と埼玉県の上尾市から参加した一人で明暗が分かれた。上尾住人は今回の雪の天気予報で車でなく電車に切り替え、更にはリュックを準備し、靴も雪用を履いてきた。出身地は青森で、大学生活も新潟で送った人であり、更には前職が鉱山会社であったので、海外経験が長く、危機管理には優れた人であった。自動車組の二人の内、一人はスキーで良く雪国に自動車で行った経験を積んでおり、車で来たが身支度はリュックに靴も雪用にしており、手袋も2セット用意し、更にはヤッケも2種類持参してきていた。後から話を聞いたところ除雪作業が生じると予想しての事であった。雪国育ちでもなく、スキーも若い時分には遣ったが、最近は雪にはご無沙汰の私が一番判断が甘かったことが分かった。しかし、旅館から徒歩で駐車場まで行くことを早く決断し、渋川駅から電車で帰る選択でなく、自動車に乗って帰京する判断は予想外に成功した。上尾住人は危機管理の素晴らしい人であったが、日本のTV報道を信じて判断を誤った。TV報道では正午ごろにJR東京の渋川線が開通する予報を流しており、上尾住人は熱心に聞いていた。彼からのメールで渋川駅で7時間以上も待った事を知り、自動車組は彼が渋川駅で待っている時には上尾駅を通過していたのである。今思うと渋川駅でなく新幹線が開通していた高崎前まで送るべきだったと後悔したが、渋川駅時点ではそう簡単に高崎駅まで行ける見通しになかったことも確かであったので、全て結果論と言わざるを得ない。ひとつの判断がこれ程までに影響があることの怖さが分かり、上尾住人も渋川駅で我々を待たせて駅員に聞くことをしなかったのは、日本のTV報道の確かさであった。しかし、今回の雪情報に限ればオリンピック優先で、雪情報がお粗末であったことは確かであり、視聴率競争で動いてるTV局の信頼性の欠如を改めて考えた。日本人は何時から危機管理に対して無頓着な国民になったのだろうかと思われてならない。私自身も含めて3.11で経験した自然災害の怖さをたった3年で忘れた問題を今後の戒めとしなければ大袈裟ではなく、日本人は大丈夫だろうかと思ってしまった今回の大雪であった。貴重な体験をさせてもらった。