最近読んだ本に「明石元二郎」と言う軍人の伝記がある。歴史に詳しい人なら直ぐに日露戦争を想起すると思われるが、私も此れまで読んだ本に何度か登場する人物であったが、明石元二郎の伝記は初めてであった。伝記を読むまでは明石と言う軍人は日露戦争の時に欧州で対露工作で多大な功績を挙げた位しか知らなかったのだが、明石と言う人物は朝鮮統合の立役者の一人であり、台湾総督の時にはその後の台湾の発展を支えた基礎を作った一人でもあったことが分かった。軍人であったので強硬な性格も持っていた様だが、明治時代の偉大な軍人である「児玉源太郎」、「川上操六」と並ぶ人物と評価されている。この明石元二郎が台湾総督時代に台湾総督府の役人を前にして語った言葉が、「日本人はすべてを針小棒大にして騒ぐのでなんでもないような事まで大きくしてしまうから気をつけないといけない」であった。更に、明石元二郎は新聞などはその典型的であると言っているのだが、現代の日本でもまったく同様と言わざるを得ない。進歩がないと言うか気質だから直らないと言えば話が終わってしまうが、情報化時代になっては更に針小棒大効果が大きくなって国民を突き動かしている様な気がする。沖縄の普天間移設問題も十数年掛けてきた事であるので1年~2年移転が遅れても余り影響がないと思われたが、新聞は挙って米国の不信を招くとか大騒ぎであった。これ等は正に過去に明石元二郎が恐れたことの様な気がする。郵政改革の時ももっと冷静に考えるべきであったが、小泉のアジテーターによって誰もが今直ぐ郵政民営化に着手しないと大変なことになると思って賛成してしまった。しかし、本当の問題は小泉のインチキ改革では姿を現さなかった予算の無駄使い構造であった。民主党の仕分け作業で行政の無駄使いを国民に認識させた成果は認めるが、その後は法律を変えなければ何も出来ない態度であるので失望してしまった。本来ならこの様な問題を針小棒大にして騒げば良いのだが、本当に必要なときには沈黙したままである。このため、日本人の針小棒大気質を煽って間違った方向に誘導しているのはマスコミであることは一目瞭然である。仕分け作業の材料は消費税大幅アップを目論んだ財務省の民主党に対する餌なので深追いさせない仕組みとなっている。馬鹿な国会議員はそれに踊らされているだけであるので、構造改革までには至らない。マスコミも記者クラブ制度があるのでネタを貰えないと困るので財務官僚の意向に従った記事しか載せない。過去も現在も日本人の針小棒大気質が国益を損なっているのだが、それを助長させているマスコミの責任は重いと言わざるを得ない。
今更乍の郵政改革論者の弁
フジサンケイビジネス紙に日本郵政公社初代総裁であった生田正治氏(商船三井最高顧問)の記事:生田氏「郵政改革、議論なき逆行」が載っていた。船会社の人は視点の対象が海の外であるので国内の事は新聞記事を通して見る程度の認識しかない事が分かった。この様な人物が郵政公社の初代総裁であったかと思うと情けない限りである。勿論、国民新党の亀井氏の様に郵政事業を昔に戻す事には賛成ではないが、生田氏の様に郵貯の問題と郵便事業サービスの採算性の視点からしか判断しない改革などは論外である。彼の考えでは郵便事業は企業のために存在するかの様に工場がなくなった地域では郵便局が不要なので整理し、新しいビルが建った所には新設しており、郵便事業に関しても郵便局の地方ネットワークを維持してきたと言っている。この自慢話には生活者に対する配慮が少しもなされていない。郵便集配事業は収益だけを考えて行なう事業でない事は誰しもが理解していることである。郵政集配事業は国家の基本的なサービスなのである。当然に情報化時代で郵便物が減少している現在に関しては抜本的な改革は必要であるが、その改革は生活者を前提としたものである。今回の民主党の仕分け作業で分かった事は行政が何兆円もの無駄を平気で垂れ流しているのが分かり国民は憤っている。郵政事業は切手や収入印紙を販売して事業を推進しているので、他の税収入だけに依存している事業とは基本的に異なる。郵政改革はもともと郵貯や簡易保険の問題であったが、情報化と相俟って郵便事業が赤字となったために全体を民営化の手法で改革しようとした訳だ。郵貯の問題は米国の圧力と財投の解消を考えた財務省の思惑が一致して進められたと推測するが、問題は郵便事業の改革を考える上で相応しい人物がいなかったことが失敗であった。物流界の人間なら良いと思った生田氏は陸の物流など素人同然であり、然も国家のシステム改革なのに収益でしか判断できない小物を起用してしまった事である。私の知る限り大企業のトップになった大半は過去の成功したビジネスモデルを信奉する裸の王様である。勿論、明治時代の企業人は天下国家を考えてビジネスを行なったが、現代の経済人は自分の所属する会社しか考えられない小物ばかりである。その様な小人物に国家の将来を賭けた根本の改革を任せた責任は重い。然も、誤りに未だ気が付かず俺の目指した郵政改革を行なわないのは大きな損失などと自己弁護している姿は見苦しい。株式上場の利益などと言っているが、国益をうしなうのに上場益とは恐れ入った言葉である。郵政事業から郵貯の切り離しは当然としても郵便事業は別な次元で論じる必要があったにも関わらず民営化による利権の餌食になってしまった改革論者の責任は重い。行政の仕事は民間で出来ない事業を推進することであり、国民生活の上で必要なものは税収を超えても行なうべきものである。何十年も前から郵貯を財投資金として活用してきて邪魔になったから民間にか肩代わりさせる様な責任転嫁の改革など断じて認めてはならない。官僚と政治家の責任をハッキリさせてから行なうべきである。米国では郵便事業は国営である。生田氏はこれにどの様に回答するか問うてみたい。