天竜川の水難事故を考察する

天竜浜名湖鉄道会社の運営する天竜川の急流船下りで事故が起きた。社長会見では船頭のミスと釈明された。確かに事故だけに焦点を絞って見ると会社側の説明通りと理解すると思われる。然し、天竜浜名湖鉄道が3年前まで赤字鉄道会社であり、2009年に今の名倉社長が就任してから2期続けて黒字化を実現したことを聞くと、事故の原因が単純な船頭のミスと言い切れるかどうか疑問が湧いてくると思われる。新聞報道などによれば、名倉社長は内部昇格ではなく、他所から来た方らしい。前職は分からないが、鉄道の再建を委託される位だから優秀な経営実績があるであろう。私が注目した点は同鉄道会社を経費節減で直ぐに黒字にした件である。長年の間赤字会社であった鉄道を手品を使うように黒字化した手腕には驚くが、誰しもが思うのは急激な企業改革と大幅な経費節減に無理はなかったのかと言うことである。勿論、私が言いたいのは、急激な改革と大幅な経費節減を断行しても問題ない業種とそうでない業種があることである。鉄道事業や急流下り事業は共に人命に関わる業種である。特に、急流下り事業は集客が増大し、黒字化に大きく貢献していると聞いて尚更今回の事故には船頭のミスを誘発した会社側に問題があると思われて仕方がないのである。赤字が続いた会社が何も行なわないで来た訳ではない事を考えると、名倉社長が行なった経費節減は現場の非正規社員の増加であり、安全対策として必要なお金を使わないことではなかったかと推察できる。尤も、救命具の着用は会社側の自由裁量であった事には驚いたが、この制度も古きよき時代に通用したものであるのを行政側が見落としていた事例であろう。日本人の責任感を期待した制度など今日では通用しない事は自明である。会社の利益を上げるために同じ仕事をさせるにも拘わらず、正規社員と非正規社員との格差を考えただけでも自由裁量の制度など危険極まりないのである。天竜川の事故の原因は色々と推定されるが、ひとつには急激に増加したお客に対する船頭教育や確保に問題が無かったかと言うことである。然も、高齢化社会の日本では当然高齢者の船頭が多いこと直ぐに分かり、健康管理の面で会社側がどの程度考慮していたかである。日本の社会も金融資本主義が導入され格差社会になったにも拘わらず、自由裁量制度や事故に対する経営責任の罰則規定が弱い。米国の様に、自由を与える代わりに罰則規定も整えていることを日本でも早急に見習う必要がある。東日本大震災で日本人の我慢強さや礼節などを海外から評価されたが、それは一般市民の礼節である。日本企業の経営者のモラルの低下は酷く、全く一般市民と異なり、人命より数字の人達である。古きよき時代は二度と来ないのであるから、事故に対する経営責任を問う罰則規定を強化すべきである。東京電力の福島原発事故然りである。
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