ロッキード事件から50年(半世紀)目に文芸春秋がロッキード事件を新たな視点で再取材した記事を掲載した。今、田中角栄を再評価する動きがあり、その中での50年前の再検証とも思われた。当時の文芸春秋には田中角栄に対する記事として二本掲載された。一つが立花隆が書いた「田中角栄の金脈」、二つが児玉隆也が書いた「」寂しき越山会の女王」である。当時は田中角栄がロッキード事件で首相を辞めたのは米国の怒りを招いたからとの風説が流れた。その理由として「メジャーに挑戦する石油開発」と「中国との国交回復」であった。しかし、今回の記事ではそれを否定する内容に辿り着いたものの、ロッキード事件の背景に関しては答えが見つからなかった様だ。もっとも、ロッキード事件の疑惑事件は2件があり、巨額な自衛隊が購入したPC哨戒機の疑獄事件に関しては検察庁は蓋を閉じてそれより金額が小さい民間企業の全日空のトライスターだけを追求した件は今回の記事の目玉になるのだろう。そもそもソ連との冷戦時に日本に潜水艦用の哨戒機を買わせて極東のソ連の動きを封じ込めたい米国がロッキード事件などを起こして田中角栄を首相の座から降ろすことを考えることは無いはずだ。ロッキード事件が起きて驚いたのは米国も同様であったと推測される。田中角栄は当然にP3哨戒機の導入にも絡んでいたと推測出来るので、今回の事件が米国の差し金でない事は気づいていたと思われる。今回の文芸春秋では当時ロッキード事件を担当した特捜部副部長であった堀田力検事の主たる証言に基づいているが、堀田自身が上からの指示でロッキード事件では防衛庁のP3哨戒機に関しては取り上げないで全日空のトライスターだけを捜査対象にすることにした事を述べているので分かり易い。特に、米国の捜査が全日空のトライスターだけを前提に米国政府から認められたこともあり、堀田検事自身は納得してのものと推測される。話は逸れる韓国ドラマなどでは検察と警察の対立が描かれているが、日本も当時は田中角栄が警察長官であった後藤田正治を引き入れて警察を間接支配していた。一方、検察庁は大蔵官僚出身の福田赳夫の影響力が強かった。日本でも警察と検察は一体ではなかった。ロッキード事件の原因は参議院選挙に遡ることになる。それは福田派として全国区から出馬した糸山英太郎候補に対して田中角栄と後藤田正治が警察を動かして選挙違反で追い込む作戦を仕掛けたことに起因する。意図的強引に選挙違反の検挙に警察が動いたのが功を奏して糸山英太郎の妻の父親である笹川了平を選挙違反で逮捕することが出来た。田中角栄と後藤田正治が目論んだのは選挙違反を理由に笹川良一が支配する船舶振興会の乗っ取りであった。しかし、笹川良一は田中角栄や後藤田正治が考えていた以上に怪物であった。笹川良一は田中角栄に対する怒りで首相の地位を引き摺り降ろすことを計画して米国で動いてロッキード疑獄事件を起こさせたのが事実だ。この田中失脚計画は当然に福田も承知していたと推測される。堀田が指摘していた様に田中角栄は金で人を動かすことの危うさがあり、笹川が計画通りに首相退陣に追い込めた訳だ。田中角栄は首相退陣後も派閥を維持して権力を維持したが、大部分は裁判の対策に追われて二度と船舶振興会の乗っ取りを図ることはなかった様だ。ロッキード事件が笹川が起こしたことを田中角栄と後藤田正治が知ったかどうかは不明だが、ロッキード疑獄が防衛庁のP3哨戒機に波及しなかったのは米国の圧力であったことは知ったと推測できる。勿論、笹川良一がロッキード事件を起こした証拠を見つけるのは難しく今後とも記事にされることはないと思うので、50年の節目でロッキード事件を取り上げた文芸春秋も謎として扱うのが精いっぱいであろう。田中角栄待望論が出ているが、堀田検事が憂いた様に官僚に金を味わせて堕落させた事実一つとっても評価してはならない人物だ。
低金利の弊害
経済理論の有効性に疑問が持たれている昨今だが、日本経済が低迷している原因の一つには低金利政策であると断言できる。今後に金利の上昇を見込むと言っても膨大な赤字国債を考えると過去の様な金利高にはなり難いと思われる。現在の国債発行残高1000兆円、地方債200兆円を含めると1200兆円の残高になる。国家だけを考えても金利が1%上がると10兆円の利息が増加する勘定だ。国家の税収は72兆円だが、国債の元利返済額は約24兆円なので、実際には48兆円しか事業費等に使えない。実に33%強が国債の元利返済に充当されているので、サラ金財政と揶揄される現象となっている。もっとも、この様に悲観的な言動を採ると、国家の貸借対照表を見れば相当の資産があるので、税収が減少して予算が組めなくなる時には資産の売却をすれば問題ないと暴言を吐く者がいる。企業で考えれば理解できることであるが、売上が減少して借金が出来なくなったり、返せなくなった時に資産を売却する場合、遊休資産ばかりではないので、資産の売却後に賃借して土地建物を借りる(リースバック)ことになり、その経費負担は軽く無いはずだ。国が道路や橋梁などを売却したならば購入した企業は通行料を取って資金を回収するので国民の負担になり、国有資産の売却など簡単には出来ない事が分かることだ。長々と国家の問題を書いたが、低金利政策は企業にとっても事業推進に際して甘い査定になっている。驚くことに、多くの企業の国内の事業収支表に金利負担部分が抜けており、資金をタダで借り入れての組み立てとなっている。多くの資金が必要な不動産会社もマンション分譲に際しては青田売り的な発想はない。金利が安いので、竣工後に売れ残りが生じても慌てない。この為、過去の様にモデルハウスを造って青田売りなど行う会社はいない。金利負担よりモデルハウスの構築の方が高くつくからである。国家、地方自治体、企業も含めて金利が上昇すればどうなるかは自明だ。日本はアベノミクスで多くの資金を市中に投入したが、それでもデフレから大幅なインフレに転ずることななかった。金利が0に近いお金など市中に増やしても金の価値が下がらないのだ。経済学者は市中に大量な金を投入してもデフレからインフレにならなかった理由を参照点依存性などにより説明しようとしているが、結果に理屈を当て嵌めているので本末転倒の様にも思われる。何れにしても低金利でマヒした日本人社会なので、金利が急激に上昇すれば天と地が引っ繰り返る様な騒ぎになると思われる。