人間の質を教えられた本「この命、義に捧ぐ」を読んで

偶然に新聞に掲載された本の広告で「この命、義に捧ぐ」知り、購入して一挙に読んだ。私が興味を持ったのは主人公の「根本陸軍中将」が昭和20年8月15日の終戦以降も日本人の帰国を守るために武装解除しないで多くの日本人を無事帰国させたことである。命令が厳格であった軍隊において命を賭して中国大陸の内モンゴルで生活していた日本人を帰国まで守り抜いた根本博と言う一個人に対して驚いたのである。勿論、多くの日本人が無事帰国できたのは、当時の中華民国の総統であった蒋介石の温情によるものであった事も確かである。私が戦後中国から引き上げてきた人達や以前話題になった中国に残された孤児に人より興味を持っているのは、私の祖母と母が引揚者だからである。特に、祖父は引き上げ途中に病死した事もあり、子供の頃から日本陸軍の無責任さとロシア兵の横暴を聞いていたためである。私の母は相当お転婆だったらしく、戦前に遠縁の祖母を頼って満州に渡り、学校の先生や満州国の出先の行政機関の暗号係りをしていたとのことであった。しかし、祖父の関係で満州の奥地に居た為に戦争が終結した事も分からず、気が付いたら軍隊はいなくなっていたことを聞いていた。このため、異常事態に気が付いた民間の人達が団結して今の中国の大連市まで苦労して引き上げてきた事も聞いていた。しかし、駐蒙軍司令官の根本中将の様に4万人に及ぶ在留邦人を帰国させるために命を賭けた軍人がいた事を知って人間の質とは何なのだろうかと考えてしまった。根本博氏は戦後一民間人になったが、今度は蒋介石に恩を返すために台湾に苦労して渡り、命を賭けて台湾防衛に尽くした生き方は凄いのひと言である。この様な人物がいた事さえ知らされず、逆にシベリア抑留の張本人である瀬島龍三などが英雄視される日本を思うと今の無責任な日本人の生き方が良く理解できた。明治維新以降、多くの優秀な子弟が陸軍士官学校や海軍兵学校に学んで軍人教育を受けたのだが、多くの軍人の生き様を見ると人間の質を形成するのは教育だけではなくその出身地域や家系であるかもしれないと思った。ちなみに、根本博氏は福島県の農家出身であり、明治維新の時には逆賊と言われた地域である。
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