設計施工発注方式の問題点

建築会社に設計施工で発注することが主流になった理由には幾つかあるが、大きく流れが変わったのは1998年(平成10年)の建築基準法改正からと思われる。この時の改正で建築審査の民間委託が決められ、確認申請時の資料が簡素化された。この改正は建築審査のスピード化で景気回復を狙ったものと思われるが、拙速極まりない民営化であった為に構造偽造事件が起きて建築に対する不信感を招くことになった。事件が起きた背景は一般には容易に理解できない事であったので、事件以降は小規模な設計事務所にとっては非常に不利な結果となった。然も、この事件が設計施工の発注を増加させたと思われてならない。

この様に書くと設計施工の発注で何が悪いと反論が出ると思うが、例えて言えば設計施工とは、"泥棒に鍵を渡して家を守らせる"と同じであるからだ。勿論、発注者側に建築の専門家がいて施工監理できる体制があれば設計施工でも問題はない。問題なのは、工事を監理するのは設計をした設計会社であるが、設計施工は造る側とチェックする側が同一なので、現実的にはチェック機能が働くなるリスクが内在していることだ。スーパーゼネコンなどは、施工の品質を守る為に社内検査を実施しているのだが、工事進行中のチェックは行っているケースは少ないので、設計施工を分離する程厳格ではない。

最近の事例では、一つは工期の遅れに対してチェック機能が働かずに青田売りの契約で買主からペナルティが課せられた問題だ。勿論、発注者の体制にも欠点があることは確かなので、余計に発注者側では設計と施工を分離することが重要となる。もう一つは設計会社を選んでおきながら設計施工で発注し、わざわざ建築会社の下に入れた事例だ。小規模設計事務所の悲哀だが、耐震偽造事件の影響で設計事務所がミスを犯した場合の責任能力が問われたケースと言える。私から言えば、構造偽造事件は意図的な犯罪であり、設計ミスではない。PCが普及する前の手計算時代なら兎も角、現在のPC普及の時代には計算ミスは考えられない。過去には小規模の設計事務所では構造計算を大手の構造設計事務所に依頼するなど建物規模によって発注者の信頼を得る方法を採用していた。しかし、現在は先ずはコストありきなので、大手構造設計事務所に外注することが厳しくなっているのも確かだ。設計施工の発注も始まりはと言えば、建築工事費を安く抑える為なので、今では大手デベロッパーも設計施工の発注が多い。

設計施工費が安くなるのは設計計画の費用が工事費の中に含まれている為に安くなるのであり、建築会社の殆どは設計を外注にしているのが実情だ。この為、本来ならば設計など工事費と比較して金額的にはプロジェクト経費の中では小さいので、もう少し設計費に予算を付けて設計会社に工事費の積算を行わせた方が工事費が安く付くと思われる。建築確認申請の民営化で建築確認資料が簡素化された時には必要最低限を設計事務所に委託し、その後は建築会社に設計の不足部分を遣らせる変則的な設計施工が見受けられた。日本人は右倣え国民なので、直ぐに業界全体の方式となった。愚かな選択と言えよう。逆に、今では構造偽造事件が起きたので、設計の資格の強化や建築確認資料の必要以上の提出が2004年(平成18年)から始まったので、設計事務所にとっては費用が増すことになり、設計施工の発注方式に費用的に対抗できなくなった。改悪の典型的な事例だ。

建築業界は手書き設計からCADに移り、今では立体化設計のBIMに移行してきている。設計施工現場では別な次元での間違いが発せいし、完成まじかのマンションの解体なども起きている。その他にも、大手デベロッパーが分譲したマンションでも工事上の欠陥が見つかり、購入者とデベロッパーと建築業者との間で裁判事件まで起きている。信頼関係がなくなった現代において何が必要かが問われる時代にあっては、再度原点に戻り、足元を見直すことが重要と考えられる。30年前には考えられない技術により考え方が変わってきたが、それと比例して物づくりの現場やメンテナンス現場は多くのリスクを抱えているかのように見える。データー主義が効率とコスト削減をもたらしたが、データ解析が万能薬ではないことに気付くべきだ。特に、物づくりの現場では、多くの視点に曝してこそミスが防げる。

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