不動産の今昔で思う

不動産業界には今も昔も金銭的な成功を求める人達が集まる。尤も、私の時代には学生運動を行った為に通常の就職出来ない者が、余り経歴を問わない中小の不動産会社を職場とした。私も業界紙の記者からいきなり革マルですか、中核ですか、京浜安保ですかと聞かれて戸惑った記憶がある。勿論、不動産業界には学生運動とは反対の運動部出身者も多く、そういう意味では過っては極左と極右の思想の持ち主の呉越同舟の業界であった。不動産業界の最盛期は20年以上前の経済バブルであったが、このバブル崩壊を期にインフレ経済時代が終焉し、戦後生まれの人は経験したことがないデフレ経済の出現となった。デフレ経済も15年以上が経過し、社会に出てデフレ経済しか経験していない人達の年齢は大学卒なら38歳、高卒なら34歳である。どの業界も同様ではあるが、不動産業界も何時の時期にその業界で経験を積んだかで認識が異なる。不動産業界の場合には、デフレ経済の中で平成ミニバブルが起きているので、ミニバブル時代に不動産業界に入った若い世代の認識は過去のインフレ経済の時代と似た面がある。仄聞した話だが、新興住宅販売会社の若い幹部社員が部下に"住宅を買うのはコンビニでおむすびを買うのと一緒の感覚だと思って売れ"と指導している事を聞いて驚いた。インフレ経済時代には住宅を購入する時に土地の値上がりによる買い替えを前提にしていたので、住宅の造りが悪くても売れた経緯がある。然し、デフレ経済になってからは終の棲家として購入する人が殆どだと理解していたので、平成ミニバブルで不動産業界に従事した若い世代の感覚に危惧してしまう。デフレ経済なのに住宅を購入する人が多いのは幾つかの理由があると思われるが、分かりやすいのは借入金利が低いと言うことである。過去のインフレ経済時代には金利が高く、バブル経済時代で金利が安い時代にあっても4%台であり、金利は不動産事業の大きな要因であった。しかし、平成の不動産ミニバブルでは極めて金利が低く、事業収支における金利要因の重要性が軽視されるリスクがあった。平成ミニバブルには過去に失敗した経験が生かされずにインカムゲインよりキャピタルゲイン重視の事業が多かったのも特徴的であった。この為に、低金利時代にあって7%以上の不動産金融の借り手が多く出現したのであるが、多くの人に錯覚を起こしたのは不動産証券化バブルと思われる。不動産が物件から証券化手法で金融商品に変えられるという錯覚が招いた悲劇だが、この様な時期に不動産業界に入った若い人達はこの経験のために人生を左右される可能性もあり、笑い事では済まされない。特に、不動産事業には金融の調達が重要であり、その苦労をすれば一人前の不動産会社の経営者になれるのだが、資金調達で苦労しない経験しかなければ再度失敗する可能性が大きい。不動産業界に関係して30年以上経過するのだが、生き残ってきた不動産会社を見ると、社会に貢献する理念が必要なことが分かる。日本は地震国なので防災を重視した街づくりは必要なことだが、土地価格を急上昇させる様な事業を進めることではない。飽くまでも、需給バランスに従った開発計画であり、少なくても開発計画地区の人や会社を理不尽に立ち退かせて行うことではない。命の次に、人によっては命以上に大切な不動産を扱うには何が必要な資質かを自らが問いかけるべきと思われる。
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