減点主義が日本社会を脆弱にした
経験が必要と言うと、直ぐに一個人の経験などは不確定部分が多すぎて参考にならないと反論される時代である。しかし、私が言うところの経験は、一つには"物づくりの経験"での事であり、二つには"失敗の経験"である。前者は言うまでもないが、タイトルの問題は後者についてである。直近の事例では、北海道の大雪山系の山での遭難事故に見られる様に、順風満帆での登山経験しか持たないガイドなど非常時には役に立たないのである。実社会でも、挫折や失敗の経験のない者は非常時に弱いのである。特に、若い世代は便利な情報化社会の中で育ち、然もPCを使えば簡単に答えが出るような生き方であるので、尚更、経験を重視しない傾向が強い。減点主義は戦後の長いインフレ経済時代の産物だが、極論を言えばインフレ時代は失敗の経験など必要ない様に錯覚したのである。然し、デフレ経済や低成長経済の時代では、効率至上主義となり、経費を極限まで削減するので、成功体験しか持たない考え方には大きなリスクが内在することになる。昨今の日本社会を見ると、成功者に対して過剰な評価が目立つ。少なくても、自己資本の創業者の成功に対しては間違いなく成功に至る過程で資金確保の苦労や失敗体験を有していると考えられるので多少過剰評価になっても大丈夫だが、サラリーマンの経験しかない社内ベンチャーの成功者に対しては先の創業者と同様な評価をすることはリスクがある。尤も、茲で論じているのは能力のない失敗者ではない。有能であるにも拘らず失敗体験を有する者の方が、成功体験しか持たない者より非常時や危機に対応する能力が優れていると言いたいのである。
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