隔世の感

昨今は資産運用のパンフレットで資産購入を勧誘する会社が多いが、その中でビルのフロア購入を勧めるものがあった。1棟の建物を購入するよりいわゆる区分建物の方が資産価値が高いことを謳ったものであった。区分所有建物とは分かりやすく言えばマンションなどの住戸が代表的なものだが、ビルのフロア購入を勧める案件はオフィスとしての活用を目的としている。簡単に言えば、賃借でオフィスを利用している会社や個人に区分所有建物のオフィスを購入すると賃料分を購入に要する借入金の返済に充当させて資産を得られますよ、という事だ。共同所有のマンションの為の法律として区分所有法が成立したのだが、法律制定当初から長い間は専らマンション法と呼ばれる位に住戸を目的としていた。その後、共同建物は住居として住まいに使用する以外にビジネスマンションなるものが考案されて仕様は居住用だが、オフィスとして使う物件も出現した。今から40年以上前なので未だオフィスビルは少なく、個人事業者が賃借するには保証金も高かったので、少人数のオフィスとしてビジネスマンションは好評だった。

更に、ビジネスマンションにヒントを得たと思われるのが弁護士ビルなるものの出現だった。弁護士ビルはビジネスマンションよりは通常のオフィスビルに近く、弁護士と言う職業からオフィスを借り難いと言う問題と弁護士と言う個人事業主にはサラリーマンの様に退職金がないので、引退時に弟子に事務所を購入してもらう事で退職金代わりにもなるので多くのメリットがあった。なお、共同開発での副産物である店舗の区分所有建物は早くから存在したが、問題は流動性に難点があり、店舗用途に関しては飽く迄も意図的ではなく開発から生まれたものであった。尤も、超高層ビルの建築では、複数の企業が共同参加したことから数フロア単位での区分所有建物が存在しているが、一般的にはマンションと同じとは理解されていなかった様だ。

過去の区分建物のオフィスには流動性に問題があったことを述べたが、その最大の理由は当時の金融機関が担保価値として区分建物オフィスを見てくれなかったことだ。担保主義の時代であったので担保と評価してくれないので、区分建物のオフィスの需要があっても流動性に欠陥があったことになる。その後、徐々に区分建物オフィスにも担保価値を求める金融機関も現れてきたが、実際の不動産取引においては評価の80%が一般的であった。

弊社は都内に共同事業でマンション建築を行っていたが、共同事業なので1階は店舗を配置し、所謂下駄ばきマンションであった。共同事業で早期の資金回収にはマンションを分譲することであり、弊社はマンション専業大手に取得分を卸すことによって販売リスクを避けた。今の若い世代には理解できないと思われるが、当時は高金利なので販売戸数の10%が売れ残ると利益がなくなるとまで言われた時代だ。エンドユーザーに販売できれば利益が多いのが分かっていても弊社規模では出来ないのが実情だった。

区分建物のオフィスが金融機関に認知され、利用者や投資家にも一般的になったのは何時頃かと言うと、1985年以降のバブル経済になってからだと思われる。都心にビル需要が増加し、多くの場所で地上げと称される再開発が進められたことから地価が急上昇し、都心で1棟ビルを所有するのが価格的に大変になったことが背景にある。弊社でも都心の共同再開発で大型ビルを建築することになるのだが、開発当初は未だバブル経済にはなっていなく、ビルの仕様が従前と大きく変わることが予想されたので、弊社は付加価値が生まれる今では死語かもしれない「インテリジェントビル」の希少価値で勝負に出た。紆余曲折を経て1987年に完成した時にはバブル経済絶頂期であり、大型ビルの区分建物のフロアも担保価値としては1棟ビルのフロアと変わらない金融機関の評価であった。

長々と区分建物に関して推移を述べてきたが、今後予想される都心のビルの供給過剰にあって区分建物のオフィスの資産価値がどの様に推移するのか興味を持っていた時に、冒頭の様な区分建物のオフィスを積極的に資産価値が高い案件として推奨する不動産業者が居たので驚いたのは確かだ。区分建物の資産価値とは何かとひと言で述べると区分所有者の団体である管理組合が機能してるかどうかだ。そのことを触れずに売買の仲介や販売して終わりでは無責任になる。何れにしても、区部建物のオフィス販売では先駆者といえる弊社が積極的に出来なかったのを専業として大きく伸びている会社が出てきたことを思うと隔世の感がある。弊社は今でも区分所有建物では多くの知見を有しているので、今後は区分建物のオフィス販売にも乗り出そうかと考えている。

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