設備設計一級建築士の資格制度に疑問あり
構造偽装事件後に改正建築士法で一級建築士に対する資格が①一級建築士(意匠)、②構造設計一級建築士(構造)、③設備設計一級建築士(設備)に細分化され、建築確認申請に際してはそれぞれの資格者が責任を持って図面を確認する事になった。専門家以外はこの改正をしごく当然と考えるかもしれないが、この改正の中で実体に合わない資格が「設備設計一級建築士」なのである。改正後は5000㎡以上の建物の確認申請には「設備設計一級建築士」の確認署名が必要になるが、この資格者に該当する者は全国で3000名程度と言われている。賢明な方々は想像が付くかもしれないが、先ず日本の大学の建築学部では「意匠」、「構造」は重点的に学ぶが「設備」に関しては優先度が低い科目である。このため、数十年前の設備のウエイトが低い建物の時代には一級建築士が設備設計の管理も出来たが、近年は設備も「電気」、「給排水」、「空調」と3部門の専門知識が必要になったために、この部門には理工系の「電気工学科」、「機械工学科」などを専攻した人達が従事していた。資格としては業界が制度化した「建築設備士」が設けられていた。今回の改正で問題となるのは、建築学科を出ていない「建築設備士」は幾ら経験があっても「設備設計一級建築士」にはなれないのである。現場を無視した制度の導入は形式主義に陥り、名義貸しを容認する事になる。ちなみに、この資格が得られる一級建築士は既にリタイアしている資格者であり、今の建築設備の設計や管理が出来ない人達が殆んどである。更に、今回の資格制度の改正は大手企業に業務を集約する意図も含まれており、中小設計事務所を淘汰する制度に他ならない。何れにしてもあらゆる制度の改正が現場を無視した監督官庁の責任逃れに終始しているので、この様な社会システムが構築されてゆくと米国の様に日本の建築業界も次第に技術的に衰退してゆくと思われる。現実に、今の若い建築家の大部分が碌に図面も描けない世代になってきており、然も3kの職場として建築学部も敬遠されてきているので、将来が危惧される。構造偽装事件は、小泉政権が行なったインチキ構造改革の結果であり、それを制度改革で監督責任逃れを図った国土交通省の責任は重い。施工技術や職人技の低下を招いているコスト削減の大合唱も将来に大きなツケが回ってくることを自覚した方が良い。
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