江戸末期の出来事の2冊の本を読んで

1冊目は"弧城の春"、2冊目は"垣内教授の江戸"とタイトルが付いた本だ。前者は備中松山藩10万石の財政再建を行った山田方谷を主人公とするもので、後者は東京芸術大学の教授を主人公とするものだ。山田方谷は実在した人物だが、垣内教授は架空の人物だ。2冊の本を手にした経緯だが、"孤城の春"に関しては備中松山藩の山城が日本で一番高い位置に作られたもので、ペルーのマチュピチュに擬えて城跡が日本のマチュピチュとして有名になっていることと、所在地の岡山県高梁市に関して過去に高梁市出身の方から相続の件で相談を受けたことや山田方谷に興味があった為だ。江戸末期には幾つかの小藩で借金漬けの藩財政を再建した人物がいたことは知られているが、山田方谷の備中松山藩も収入より支出が上回る財政を長年続けて来て破綻寸前で有った様だ。山田方谷は儒学者であったが西洋の知識にも通じ、財政再建後は藩の財政を改善する為に商いを行っている。翻って、現在の日本の地方自治体は過去の江戸時代の藩と同様に財政を借金で回している所が殆んどであり、正に財政破綻寸前の自治体も多いので江戸末期の諸藩と状況が似ている。江戸時代と異なり、今日では国が地方自治体も稼げる制度を設けることにより、有能な首長がいる自治体では稼ぎ始めている。封建社会と民主主義の社会とで違いがあるが、企業と違って自ら稼ぐことをしない組織は衰退して行くのは必然と思われる。自ら稼ぐ能力を駆使して公的なサービスを行えば人心の安定にもつながる。歴史は繰り返す言葉があるが、この意味は全く同じことを繰り返すのではなく、形を変えて似た現象が繰り返されることの様だ。そういう意味では江戸末期の諸藩と現在の国と地方自治体の財政は似ていると思われる。2冊目の方では江戸末期に農民が武道に励んだ理由や経済悪化が起きた理由を知ることが出来る本だ。農民が武道に励んだ地域は主に天領である所だ。天領は徳川幕府の直轄地で徳川家と御家人が支配していた地域となる。藩の様な組織で領地が管理されていなかったので、治安面で不安があり、特に幕末には御家人の領地を守る武士が常駐していなく、名主庄屋と呼ばれた資産家が管理を代行していた。この為に道場が作られ武士の様に武道に励んで、盗賊や状況に不満を持つ人々の争乱に備えていた様だ。新選組の近藤勇や土方歳三などは農民の道場で武芸を学んだ者たちだ。江戸時代は建前上は鎖国なので国内の経済を動かすのにお伊勢参りなどのイベントを行っていたと思われる。参勤交代などは経済に大きく貢献したイベントで有った。江戸末期が経済的にダメになった理由の一つが外国の侵略に備えるためにお金が掛かる参勤交代を辞めた事で多くの失業者が出たと思料する。経済で考える時代でなかったことが参勤交代の経済効果に目を向けるられなかったのは悲劇だと思われる。垣内教授は名主庄屋の次男坊との設定でストーリーが進められているが、江戸末期の江戸周辺の状況を知るには良い本であった。関家も大正時代に副業の養蚕の買い付けで失敗し多額の借金を抱えたが、親戚の名主庄屋が借金の肩代わりをしてくれたようだ。借財を返すために水戸徳川家の山林の管理を受託したと聞いており、他の山林管理者より多くの収入を水戸徳川家に齎したために当主であった水戸様からローマ法王に謁見した際に貰った銀時計を頂戴したらしい。らしいと言うのはその銀時計は祖父が満州に持参して戦後の引き上げ中に簒奪されてしまって当家にないからだ。

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